大嫌いの先にあるもの

小石がぽちゃんと池に落ちた。

腕の中に収まった春音を見下ろすと、何が起きたかわからないって顔をしてる。

パチンとデコピンしてやった。
全く心配させて。今のは本当に危なかった。

「痛っ、何するのよ」

春音がおでこを抑えて、さする。

「危ない事をした罰。前見てなかっただろ。もう少しで池ポチャだったぞ」

春音が気まずそうに視線を下げた。

「だって黒須が」
「何?」
「私の事イチゴみたいって言うから」

唇をすぼめた春音が小さな女の子みたいだ。心細そうな顔をしてて、ギュッて抱きしめて、頭を撫でてやりたくなる。

「ごめん、少しいじめ過ぎたな」

春音がまたイチゴみたいになった。

「どうした?またイチゴになってるぞ」

「は、離して」

「えっ」

「腕、離して」

春音の白い腕を掴んだままだった。腕に回してた手を下ろして白い手をしっかり握ると、春音がパチパチと瞬きをした。

「なんで手つなぐの?」

「手をつないでれば池に落ちたりしないだろ?」

 春音が怒ったように頬を膨らませた。

「もう落ちないもん。離して」

「ダメ、迷子になるから」

「小さい子じゃないんだから離してよ」

「池に落ちそうになるんだから小さい子と変わらないよ」

春音が声にならない声をあげ、こっちを睨むが全然怖くない。

「帰るまでは離さないよ。さあ、行こうか」

握った春音の手を引っ張って先に進んだ。