大嫌いの先にあるもの

「もう、何なの」

黙ったまま春音を見つめていると、ローズピンク色の唇が、怒ったように尖る。その表情が可愛らしくて笑みが零れた。

「なんで笑うの」

春音が怒ったように言った。

「春音が可愛いから」

焦げ茶色の瞳が戸惑うように揺れ、気まずそうに視線を伏せた。

「私の事からかって馬鹿にしてる?」

そんな風に取られてたなんて心外だ。

「からかってないし、馬鹿にもしてないよ。なんでそんな風に思うんだ?」

「だって私、可愛くないから」

「確かに可愛くないね」

春音が反発するように視線をあげてこっちを見た。

「僕の言った事を否定的に取り過ぎる。そういう所は可愛くない」

「だって、黒須が変な事ばかり言うから」

「僕は思った事しか言ってない。今の君を見て美しいと思うし、可愛らしいとも思う。どうか、僕の言葉を素直に受け取って欲しい。春音は魅力的な女の子だよ」

「本当にそんな事思ってる?」

「ああ、思ってる。春音はとっても綺麗だ」

「じゃあ、美香ちゃんに会ってなかったら私に恋をした?」

「えっ」

目が合うと春音がまた視線を下げた。

「な、何でもない。今の忘れて」

春音がスプーンを持ち、物凄い勢いでプリンを食べ出した。

なんと二口で食べると、次はイチゴムース、その次はチョコレートケーキを平らげた。一生懸命に食べる姿が小動物みたいで可愛い。つい笑ってしまう。

「もうっ、何?」

笑っていると春音がこっちを睨んだ。
怒っているというよりも恥ずかしそうな表情に見え、それがまた可笑しくて笑いが止まらない。

「ちょっと、黒須」

春音も僕を見て半笑いになって、それから笑いのツボに入ったのか大げさに笑いだした。

「もう、変な顔しないでよ」

笑いながら春音が言う。

「してないよ」

わざと真面目な顔をすると、春音が笑い転げた。

「もう、その顔しないで、ケーキ食べらんない」

「こんな顔?」

さらに真面目な顔をすると、春音がお腹を抱えて大笑い。
無邪気に笑う春音を見たのは美香が亡くなってからなかった。

やっぱりいいな。春音の笑顔はお日様みたいで。

「笑ってる春音が好きだよ」
「えっ」

春音が驚いたようにこっちを見た。目が合うと、落ち着かなそうに焦げ茶色の瞳が左右にキョロキョロと動き、頬が真っ赤になった。急にどうしたんだ?

「春音、顔が赤いよ」

「わ、私は黒須なんか大嫌いなんだから」

いきなり春音が立ち上がって、テーブルから離れた。
料理を取りに行くのかと思いきや、料理コーナーと反対の方に春音は向かってる。

どこに行くんだ?
慌てて、席を立ち春音を追いかけた。