大嫌いの先にあるもの

近くで見るとより一層、春音は美しい。目鼻立ちが整った顔にされたメイクも、ドレスも似合ってる。

メイクをすると少し美香にも似てる。姉妹なんだな。
テーブル席に落ち着いて、隣に座る春音を見ながらしみじみと思う。恋でもすれば春音はこれからもっと美しくなるだろう。心配だな。これ以上綺麗になったら一人で外は歩かせられない。出来る事ならどこかに閉じ込めてその美しさを独占したい。なんて言ったらグーでパンチされそうだ。

「私、全然綺麗じゃないから」

フォークを置いた春音が顔を赤くして怒ったように言った。
いつも容姿の事を褒めると春音は怒りだす。

今日こそは自分の美しさをわかってくれてると思ってたのに。ドレスアップをした自分の姿を見て、春音は綺麗だと思わないんだろうか。ここにいる誰よりも美しいのに。

「春音は美人だよ」

心からそう思う。自信を持って欲しい。昔みたいに女の子らしい格好をして、キラキラと輝いていた春音を見たい。

「美人じゃない。美香ちゃんは美人だったけど、私は違う」

私は違うと言った言葉が卑屈な感じに聞えた。

なぜ春音は自分を認めないんだろう。どうして苦しそうな顔をするんだろう。
オレンジジュースなんて言ったから怒ってるんだろうか。

「春音は相変わらず頑なだな。わかったシャンパンをもらおう」

テーブルの側に立ってたウェイターからシャンパンをもらうと、春音の前に置いた。これで六杯目だ。大丈夫だろうか。

様子を伺っていると、春音がつまらなそうにシャンパンを飲み、短く息をついた。よく見ると泣きそうな顔をしてる。

今のやり取りが原因だろう。

嫌な思いをさせるつもりはなかったんだがな。どうして春音とはいつもこうなってしまうんだ。今日は楽しんでもらいたくて招待したのに。

でも、唇を噛みしめて泣きそうな表情を浮かべている春音も美しい。怒りと悔しさが溢れるような焦げ茶色の瞳が魅力的だ。

「な、何?」

じっと春音を見ていると目が合った。