「もしかして見てたの?」

どこかに隠れて私の様子を見てたんだ。それしか考えられない。

「うん。春音がお姫様みたいに綺麗だったから見惚れてたんだ」

お姫様みたいに綺麗だなんて、なんでそんな事言うの。全然思ってないくせに。黒須と一緒にいたらわかる。私は綺麗じゃないって。だってみんなの視線は黒須を見て、その後、ガッカリしたように私を見る。その視線の意味は知ってる。あんな素敵な人の隣に、なんであんなみすぼらしい子がいるんだろうって思ってる視線だ。

やだ。黒須といると劣等感だらけになる。黒須が完璧過ぎるから。
昔も今もそうだ。

「私、全然綺麗じゃないから」

フォークを置いて黒須を見た。
黒い瞳が優しげな光を持ってるように見える。そんな風に見ないで欲しい。黒須に大事に思われてるって勘違いしそうになるから。

「春音は美人だよ」

「美人じゃない。美香ちゃんは美人だったけど、私は違う」

黒須がため息をついた。

「春音は相変わらず頑なだな。わかったシャンパンをもらおう」

黒須は困ったように側に立ってたウェイターから私の分のシャンパンももらった。

「どうぞ」

怒ったような調子で言われた。
それから黙って黒須がシャンパンを飲んだ。気まずい。何か話した方がいいんだろうけど、何を言ってもケンカになりそう。

テーブルの上の白い薔薇が急にくすんで見える。
やっぱり来るんじゃなかった。黒須のいる世界と私のいる世界の違いを見せつけられたみたいで苦しい。黒須は別世界の人間だ。お城に住む王子様だ。私みたいな普通の子が一緒にいるような人じゃないんだ。

ホテルでドレスアップをしてもらった時はお姫様になれたのにな。さっきまではキラキラと世界が輝いて見えたのに。

どんなに着飾っても私は即席のお姫様だ。本当のお姫様にはなれない。黒須の隣は相応しくない。だって周囲の視線がそう言ってるから。黒須の隣にいるのは物凄い美人で、本物のお姫様じゃないと似合わないって。

一緒にいるのがだんだん辛くなってくる。見ないで欲しい私の事なんて。なんでみんなジロジロとこっちを見るんだろう。どうして私を見て違うって顔するんだろう。

酷い人。

きっと黒須は私に劣等感を感じさせる為にお供を頼んだんだ。

やっぱりこれはペナルティなんだ。浮かれてたのがバカみたい。

シャンパンを飲んで、涙が込みあがってくるのを耐えた。