うっすらとした意識の中、
自分の体に掛かる重みと温もりを感じる。


唇に触れる、柔らかい肉感。


意識が段々とハッキリとして来て、
目を開いた。


目の前には、知らない男の顔がもう本当に数センチの距離にあり。


細めた目で、私を見ていて、
落とすようにキスをして来る。


それは、つい先程迄感じていた、柔らかい感触。


「…っ、ちょっと、何するんですか?」


私はその男を突き飛ばすように押す。


「え?まだチューしかしてないのに」


その男は私から離れて行く。


私は大きなベッドの上に寝転んでいる事に、今気付いた。


此処、何処??



「あの…此処は何処なのもそうですが、あなたは誰ですか?」


私はゆっくりと体を起こす。


ちゃんと服は着ていて、ホッとした。


目の前のその男は、ベッドに胡座を組んでこちらを見ている。


赤いフレームの眼鏡の下は、ちょっと垂れ目で。



優しそうに、見えるけど。


そういえば、私、酔っぱらってこの人に倒れ掛かったような…。


うっすらと、そんな記憶が蘇る。


「あの、私、あなたにご迷惑掛けたみたいですみません」


「いえいえ」


「でも、だからって…」


キスしたり。


そして、今居る場所が何なのか気付いた。


一見、高級ホテルっぽいけど、
多分、此処はラブホテル…。


ベッドボードに、避妊具と思わしきものが置いてあるから。



「でも、俺、ちゃんと訊いたよ?
ホテル連れてっていいか?って。
真湖(まこ)ちゃんに」


え、私の名前知ってるの?


「もしかして、全く記憶ない?
綾瀬真湖(あやせまこ)K大学の四年生って、真湖ちゃんが俺に教えてくれたのに」


そうなんだ…。


酔ってて、本当に記憶がない。


「って、嘘。
勝手にホテルに連れて来たのもそうだけど、
真湖ちゃんの鞄の中勝手に見て。財布から、学生証をちょっと見させてもらった」


私は思い出したように、鞄を探す。

それは、部屋のソファーの上に置かれている。