「でもね、真湖ちゃんと別れる時、約束したんだ。
二人の思い出のホテルで、また真湖ちゃんの誕生日のお祝いしよう、って」


「なにそれ?」


そう訊いて来るナガやんに、真湖ちゃんとの出会いから話す。


初めて、真湖ちゃんをそのホテルで抱いた夜の事も。


そして、一つだけ嘘を付く。


違う、ホテルの名前を出した。


「次の真湖ちゃんの誕生日の10月5日、そのラブホテルの707号室で、真湖ちゃんと再会するの!」


昔から、なんでかナガやんは俺の嘘を見抜く。

だから、極力嘘は付けない。


高崎がジュニアを殺ったら、俺はもう止まれない。


自分の中にある、最終の目的へと進む。


竜道会をぶつけて聖王会を、壊滅させる。


「もし、真湖ちゃんと再会したらその後はどうするの?」


そう訊かれ、考えてしまう。

実際、俺は真湖ちゃんが待つ方の本当のホテルには行かないつもりだけど。


もし、気が変わって、そっちに行くならば。


「真湖ちゃんと再会したら、もう二度と真湖ちゃんの事は離さないかな」


何処か遠くへ、二人で逃げてしまおう、か。


駆け落ち?


「いっちゃん、女の子ってけっこうドライだから、
向こうは、そんなつもりじゃなかった、って引かれて終わるよ。
その前に、もう新しい彼氏とか居て、来ないかもしれないよ?」

ナガやんのその言葉に、アハハと渇いた笑いが出る。


それが現実なのだろうか。


「ナガやん、その日迄、夢見させてよ。
色々、真湖ちゃんの誕生日のお祝いのプランがあって。
ケーキと薔薇の花束は絶対で!
で、後は…」


その後は、その真湖ちゃんの誕生日の夜を想像して沢山ナガやんに話した。


嘘を付くというよりも、それは、夢を語るような感覚で。


昔から、俺は夢にはいつも手が届かなくて。


最後の最後迄、そうなのだろうな。


(終わり)