このホテルの部屋に、一夜は一度来たのだろうか?


このケーキや、大量にばらまかれた真っ赤な薔薇。


"――千本の真っ赤な薔薇の花束でも用意しておく――"



「…本当に、千本も」


足元にある薔薇を、1本拾った。


そして、またもう1本拾う。



もしかしたら、一夜は何か急な用事で部屋を出たのかもしれない。


だから、この部屋で待っていたら、一夜は戻って来るかもしれない。



夜はとても長くて。


その薔薇を、何度も数えた。


薔薇は何度数えても、999本しかない。


買った花屋さんが、数え間違えたのだろうか?



なんだか疲れて、服のままベッドに寝転んだ。


テレビをつけると、朝のニュース番組が始まっていた。


テレビを、ぼうっと眺めていたのだけど。


『深夜0時頃、S町駅近くのホテルの一室で銃声が聞こえたと通報が相次ぎました。
k署の警察官が銃声が聞こえたその部屋に駆け付けると、
部屋の中で男性が血塗れで倒れているのが発見され、
男性はその場で死亡が確認されました。
死亡したその男性は、指定暴力団聖王会会長の加賀見一夜さんと見られ、
犯人は捕まっておらず、銃を持ったまま逃走していると思われ、近隣に警戒を呼び掛け―――』



女性のニュースキャスターの声が、なんだかとても無機質に聞こえた。


一夜が死んだなんて嘘だ、と思うのに、それは声にならず。


私はただ、テレビの画面を見つめ続けていた。