瞬間。



彼女はいつもの笑顔を浮かべながら、

まるで昨日のように、一筋の涙を流した。




「……本気じゃなくていいから、…私の、彼氏になって下さい」




一瞬、脳が完全に機能を停止した。


彼女は、僕を通り越した誰かに話しかけているのだろうか。


「…どういう事、」


「お願い、和田君」


でも、その考えは無惨に打ち砕かれる。


だって、彼女は僕の名を呼んでいるのだから。


「え…」


「お願い」


困惑中の僕に、彼女は必死な目をしてそう懇願してくる。


「何で」


僕の口を継いだ声は、自分でも驚く程に冷め切っていた。


僕の言葉を受けた彼女は、きゅっと唇を噛み締める。


そして、そんな彼女がやっと口を開いた時、僕は言葉通り声を失った。



「私、…死ぬの」



「…!?」


元々口下手なのに、もうどんな反応をしたら良いのか分からない。


飯野さんの言葉を頭が受け付けず、意味を失った言葉が脳内をぐるぐると回り続ける。



「私ね、病気なの。白血病っていう、血液の」


「っ……」


思いがけないその病名に、僕はただ固まるばかり。


…彼女は一体、僕に何を語っているのだろう。

病気だから、自分が可哀想だから、せめてもの慰めに彼氏になって欲しいと、そう言っているのだろうか。