「俺、試合中にまじで飯野の声聞こえた。…あんなにはっきり人の声が聞こえたの初めてで、正直びっくりしたわ」


肩にかけたタオルで汗の流れる額を拭いた大和は、そう言ってさくらに笑いかけた。


確かに、僕が試合に参加していた頃も沢山の声援が聞こえてきたけれど、誰が発しているかを特定出来た事なんてただの1度もなかった。


「本当?私達、興奮し過ぎて最後誰よりも声張り上げてたからね」


過去を回想していた僕の方をちらりと見た彼女は、恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。


そんな彼女をじっと見ていた大和は、不意に。


「あのさ、…もし、良ければ」


片手で持っていたサッカーボールとペンを、彼女の方へと差し出した。


「これ、いつも俺が使ってるボールなんだけどさ、…何か、メッセージ書いてくれないかな?」


「?」


きょとんと首を傾げたさくらに向かって、大和は慌てた様に弁解する。


「違う違う、俺が和田から飯野を取るとかそんなんじゃなくて!…ただ、そのメッセージ見たら、これからも頑張れそうだと思ったから」


「…いや、誰もそんな勘違いしてないじゃんね」


大和の横で黙って話を聞いていたエマが、笑いを堪えている僕と目を合わせて苦笑する。


その通り、だって大和の恋人はサッカーボールなのだから。