数か月後──。
 長いようで短い冬が終えると、春の芽吹きがすぐそこまで近づいてきていた。城砦の周辺は雪が降り積もり、あたり一面雪景色が広がる。
 そんな寒さにも負けず、城砦の傍で訓練が行われていた。午前中は雪かきだったが、午後はそのまま体が鈍らないようにと、一対一での剣術による模擬戦を行っている。様子を見ているとすぐさまダリウスは私に気付いた。

 鎧を解除して素顔を外気に晒す。狼の毛皮に、黒のタートルネックに、ズボン、腰には剣を収めるホルスターが見えた。
 白い長い髪は、一つに括っている。その整った顔立ちを見ると、私はドキリと鼓動が早鐘を打つ。いつになったらダリウスの姿になれるのだろうか。

「ダリウス」
「ああ。ユヅキ、おいで」

 低い声。
 けれど極上に甘い声音に、私は抗えずに引き寄せられる。相変わらずダリウスは私を抱きしめるとキスの雨を降らせた。変わったのだとすれば、私も彼にキスを返すことだろうか。未だに恥ずかしいが、キスを返すとダリウスの機嫌が瞬時によくなるのだ。

「……さて、午後の予定も詰まっている。カイル」
「ハッ」
「後は任せるが、問題あるか?」

 カイルは諸々察したのか「問題ありません」と最適解を導き出した。


 ***


 ダリウスは模擬戦の続きはカイルに任せて、私を横抱きにしたまま城砦へと歩き出す。バランスが悪いので彼の腕に手を回すと口元が綻ぶ。以前よりもダリウスに甘えることも増えた。

(きっと昔の私が見たら卒倒しそうね)

 私はどこまでも広がっていく空を仰ぎ見る。
 悠々と流れる白い雲はどこまでも自由に見えた。

「本当に皇太后になるのだから、不思議なものね」
「それは俺も同じだ。まさか伴侶が空から降ってくるとは思わなかったからな」

 皮肉めいた口調で言いつつも、ダリウスは上機嫌だ。出会ってから彼は溺れそうなほどの愛を注ぐ。私はその想いに応えられているだろうか?
 ふとそう思うと、唇が動いた。

「ダリウス」
「なんだ?」
「愛しているわ」

 顔を上げて告げた言葉に、ダリウスは口元を緩めて「知っている」と唇にキスを落とす。甘くて幸せでいっぱいの味がした。

「ユヅキ、愛している。俺の隣はお前だけだ」
「私もよ」

 雪が解けて、春が近づく。寒くて厳しい冬の後で、色づく世界を私はダリウスと共に歩む。ずっと願っていた私の居場所。私はそれが壊れないように、大事に、大切にしていこう。