どうしてこんなことになったのだろう。

 何度考えても、私は自分の現状に納得というか理解が追い付かない。なぜなら私はダリウスという男の膝の上に座って居るのだ。今すぐにでも彼から離れたいのだが、無茶をしすぎた私の体は少しのことで体が軋む。

「ユヅキ、傷が痛むのか?」
「大丈夫よ」
「ならよかった」

 優しい声音でダリウスは私を気遣う。武骨な手だというのに、頬に触れる仕草はとても優しい。黒い髪に、黒い瞳、端整な顔立ち、龍神族を象徴する雄々しい二本の角はあるものの、私のような純粋な龍神族ではない。彼は人間だ。背格好も軍人というだけあってがっちりしている。この城砦ガクリュウの中でも、それなりに権威がある男のようだ。

「包帯は食事の後にまた取り換えよう」
「一人でできるわ」
「今更だな」

 優しくされて、甘やかされるたびにダリウスとの時間が増えていく。それが嫌ではないと思うようなことが少しずつ増えてきた。

(この男は、今までの人間とは違う? ううん、彼は自分の目的のために婚約者「役」が必要なだけ……)

 自分で言い聞かせながら、胸がチクチクするのを無視した。そんな私の気持ちを見透かしているのか、ダリウスは私を抱き寄せる。

「難しい顔をしてどうした?」
「やっぱり、この距離は可笑しくないかしら?」
「俺の婚約者なのだから、このぐらいの距離は当然だろう」
「婚約者役よ」
「ほら、わかったら食事にしよう。今日も消化にいいものを用意させた」
「自分で食べられ──」
「口移しと、食べさせてもらうのはどちらがいい」
「なにその二択!?」

 声を荒げる私に、ダリウスは楽しそうに笑う。またからかったのだ。いや笑っているが、これ以上駄々をこねたら問答無用で口移しされる。男の思惑に乗るのは癪だが、それでも口移しよりはマシだと腹をくくった。

「……食べさせて」
「ああ。喜んで」

 満足そうにダリウスは用意されたスープの皿を手にする。必然的に前のめりになるので、私との距離がさらに近づき、彼の唇が私の頬に触れた。

「!?」
「俺の婚約者殿は可愛いな」
「だ・か・ら、婚約者役でしょう」
「今はな」

 意地悪で、強引で楽しそうなダリウスに、私はこの慣れない環境に恥ずかしさと、戸惑いでいっぱいだった。
 どうしてこうなったのか。
 私は天界から「ある男」を追いかけてきたというのに──。
 そう思い、数日前の出来事を思い返す。