怪獣はこのように考えていた。
 自分は必要悪であり、自分が消える方法は宿主(しゅくしゅ)の命を絶やすことしかないと。
 しかし、生まれた以上は生きたいものである。
 死ぬために生まれるなど、理に(かな)っているはずでない。
 怪獣は、宿主の本来持っていたはずの、純真で明るくて無垢な少女というひとつの像を消した。
 そうしなければ、怪獣の居場所はどこにもなかったのだ。
 居場所がなければ怪獣は生きることができない。
 怪獣は自分の命のために元来の宿主の像──性格を(むしば)みながら、徐々にその居場所を自分のものとした。
 普段は大人しいこの怪獣だが、あるときは静かな暴力に走り、あるときは凶暴な悪魔になる。
 怪獣は特定の言葉や状況に際してパッと目を覚まし、ひと暴れするのだ。
 怪獣自身、自分が悪であることは心得ている。
 自分の存在が宿主を苦しめていることは明確なのであるから、善でないのならば悪であるのだ。
 しかし怪獣はそこに「必要」という言葉を付け加えた。
 本来ならば宿主の健康を害する存在であるのだから「害獣」という方が相応(ふさわ)しいはずのそれだが、そこにあえて「必要悪」という言葉をつけることで、その存在意義を作り出しているのである。
 悪を(つかさど)る存在から必要悪を掌る存在となったとき、害獣は怪獣になった。
 臆病な怪獣はそうして自分の命が絶たれることを回避し続けてきた。