余命が来るまで何をしていようか。手っ取り早く安楽死などできないのだろうか。まぁ、そんな夢は叶わないだろうし、余命を迎える時は、息を吸うことも心臓を動かすことすら忘れて、何も知らないまま死ねるのだろうけれど。
そんなことを考えながら、病院の夜道を歩いた。小さな星々が、私を嘲笑っているかのように逞しくキラキラと光っていた。

「私も星になれるかしら」

死んだらお星様になれると言うのは素敵な夢だ。死んでも家族を見守っていられるというのはとても素敵で美しい。でも、私は記憶なんてないから、家族を見ることも忘れて、宇宙をさまよってしまうのだろうか。

「それならいっそ、雪になってしまいたい」

私の名前通りの、綺麗で優しいお母さんが着けてくれた素敵な名前のとおりに。スっと地球に落ちてきて、スっと空へ帰っていくのを繰り返す。
まるで私の病気みたい。
なんの未練もなく、空へ帰っていってしまう。私とおそろい。

「…早く雪にでもなりたいわ」

ザッ、と地面の砂利を踏みつけて、目の前に人が居るのに気がついた。

「…」

綺麗な顔立ち。美青年とでも言うのだろう。その美青年はただただ夜空を見上げていた。
病院服を着ているということは、私と同じ病人なのだろう。

「こんな夜遅くに、何をしているの?」

私の問いかけに目もくれず、彼は満月を見つめていた。

「ねぇ、聞いているの?」

やや間が空いて、ゆっくりと彼は視線をこちらに向けた。やや色素の薄い瞳。さすがに私も見とれてしまった。

「…ぁ」

次の瞬間、彼はクラっと地べたに倒れ込んだ。

「……は?」