京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~

 本当にいいもなにも、そっちが映えスイーツとやらを食べに行くと言って、半ば強引に璃世のことを引っ張り出したくせに。文句のひとつでも言ってやろうかと口を開きかけた矢先。

「お嫁入りのことですわ。あなたこのままあの化け猫店主に嫁ぐおつもり?」
「いや、それは」
「覚悟がないならおやめなさいな。面倒なだけですわよ」
「え?」

 まさかやめろと言われるとは思わなかった。同じあやかし同士、アリスは千里の味方をすると思っていたのだ。

 そもそも、はなから化け猫の嫁になる気などない璃世。あのときアリスが入ってきたおかげで、無理やり夫婦契約を結ばずに済んだのだ。そのお礼がまだだったことに気づく。
 
「ありがとう、アリス。あなたのおかげで、あの人となし崩しに夫婦にならずに済んだわ」

 ペコリと下げた頭を上げたら、アリスが大きな目をさらに大きく見開いていた。あれ? と思うと同時に璃世からサッと顔をそむける。

「ア、アタクシは別に……あなたのためにしたわけじゃ……。夫婦なんて愛があるのは最初のうちだけ。あとは惰性だったりいがみ合ったり。とにかく面倒なものだとよく知っているだけですわ」

 ツンと横を向いてそう言ったアリスの耳が心なしか赤い。高飛車なお嬢様かと思いきや、意外とかわいいところもある。ビスドールのごとく美しい横顔をじいっと見つめていたら、「ほら、早く行きますわよ」と足を速められた。