Side:市松(いちまつ)苑香(そのか)


ざわざわとした教室の端から、チラリと時計を見上げる。

もうすぐ、ホームルームの前の予鈴が鳴る時間。


トクトクと鼓動が少し速くなっているのを自覚しながら、わたしは廊下に意識を向けた。



皇輝(こうき)くん、今日はお休みなのかな……。




「見て見て、黒羽くん今日も来てるよ!」



「ぁ……」


「……苑香(そのか)。おはよう」


「お、おはようっ、皇輝くん」




教室に入る前から目が合って、柔らかく目を細めながら席に来た皇輝くんに、赤くなった顔で笑みを返す。


今日も会えて嬉しいな。




「一緒に来て」


「え? いいけど、どこに……?」


「……階段?」




荷物を置いて早々に、そう言って首を傾げた皇輝くんを見て、わたしも首を傾げた。