それは1本の電話からすべてが始まった。



「はっ…!はあっ…、はっ、」



その日わたしはいつものように学校へ通って、いつものように授業を受けて。

友達と他愛ない会話をして、なにも変わらない1日を同じような気持ちで過ごしていた。


けれど、家に帰ったとき。


玄関を開けて1秒で全身が凍るように不気味な雰囲気に包まれた。

いつも家にいる専業主婦の母親を呼んでみても応答はなく、それでも玄関には母親が愛用しているパンプスがあったから。


けれどいつもと違ったのは、その代わり、ポストの配達物を取るためだけに使うような簡易的なサンダルが無かったこと。


それは必ず置いてあるものだから、おかしいと思った。



「はっ…!きゃあ…っ!」



つんっと、ただがむしゃらに走りつづけていたわたしは微かな段差につまずいて転ける。


走りづらい制服に走りづらい靴。

家から少し離れた場所にある私立高校へ通っていたわたしには慣れないことばかりだった。


こんなにもひとりで走ったことも、こんなにも暗い道ばかりを選ぶことも。

タクシーも電車も使わずに、ただ言うなれば一心不乱に。