知らない名前が出て、おれが知らない内容が広がってゆく会話。



「いや、すごいよ。今度僕のぶんも作ってほしいくらい」


「な…っ!やっぱおまえ赤菜のこと狙ってんやろ!!もう赤帆から乗り換えたんか!?はっ倒すで!?」


「ちがうって!僕は赤帆ちゃんと赤菜ちゃん、両方が好きだよ。もちろん赤太くんも」


「はあ!?もっとあかんわ!!博愛主義ってやつなん!?んなのリョウセーだけでええっちゅーねん!!」



………なんか、ここも仲良くなってる気がする。


最初の頃は烏間先輩は掴めないと言って、おれにたまに相談してくれていたのに。

もう今はその必要もないくらい、誰がどう見ても関係性は良いものになっていた。


それはおれからすれば、ぜんぜん良くないわけで。



「ん?瀧、どうかした?」


「…いえ、」



だからおれはそっと、頭だけじゃなく椅子も爽雨さんに近づける。

いや、爽雨さんじゃない。
この人は、彼女は、深雨さんだ。


おれが尊敬する人によく似た、彼のたったひとりの双子の妹。



「こっち向いて瀧、」


「え?───…っ、!」



口に入れられた、卵焼き。

ふんわりと控えめな甘さ広がる中にはチーズが入っていた。