「はあー美味かったなぁ。あまり、今度からこの道で帰ろうぜ」

「常連になろうとしてる!……いいよねアンドロイドは」

「あん?」

「無限に食べられるし、それなのに体型も変わらない」


わたしは若干きつくなったスカートをこっそり緩めながら恨みを込めて隣を見上げる。

いまノアの体内に入った蕎麦はナノマシンで分解されているところだろう。

来たときと同じのすっきりとした黒スーツの出で立ちで、猫のようにぐーんと伸びをしたノアは、わたしが肩から引っさげていた通学カバンをひょいと取り上げた。



「気分がいいから持ってやる」

「ああ……どうもありがとう」


歩きながら鼻歌を歌うノアのそれは微妙に音が外れていた。

ノアは音痴なほうの個体か、と思いながらそのあとを追いかけた。


それが良いことか悪いことかは置いておいて、ノアはわたしの後ろを付いて歩くことにこだわらなくなっていた。

もちろん後ろを歩くこともまだあるけれど、横にならんで歩くことが多くなったし、家に帰るときなんかはノアが率先して前を歩くようになった。


まるで散歩から帰っていく犬みたいだと思った。

自分の帰る家をわかっていて、こっちこっちと飼い主を引っぱっていく。

もしリードがあるとしたら、わたしはいま、ノアにぐいぐい引っぱられているんだろうな。


短く刈り上げられた襟足を見つめながら、なんとなく、ぐいっとリードをこちらに手繰り寄せる仕草をしてみた。

その瞬間、まるで伝わったかのようにノアが振りかえったからどきりとする。