恋人ができたとしても、グランツがしていたように忙しない逢瀬を繰り返す羽目になり、別れる者が多かった。

 ゆえに現在騎士団に所属している者は独身男性が多いのだが、環境に恵まれていないだけで、彼らは健全な恋愛を心から望んでいる。

 そんな状況で、グランツの幸せいっぱいな姿を見せられるのは拷問にも等しい。

 彼らは血涙を流す勢いで唇を噛み締め、婚約者に甘い視線を向けるグランツを睨んだ。

 暴動でも起きてしまうのではないかという空気が漂い始めた頃、やり取りを見守っていたシエルが再び口を開いた。

「実は今日、皆様のためにお菓子を焼いてきたのです。よろしければ、後で召し上がっ……」