「お前、もうちょっと落ち着くとかできないわけ?」

 目の前の腐れ縁の奴……新はそわそわしない様子で辺りをしきりに見回していた。

 よっぽど柊木栞のことが気になるんだろうけど、流石に異常だろこれ……。

 頬は完全に緩み切っているし、色恋に現を抜かしているような瞳をしている新に思わずため息を零す。

 こいつ……いつからこんな馬鹿になったんだ。

 少なくとも俺は、こいつの無表情しか見ていないから余計に変に感じていた。

 その原因があの人間だという事を考えると、尚更。

 人間に心を捕らえられるなんて、まさかな……。

 柊木栞に会うまでは、そう考えていた。

 だが俺は……新の溺愛っぷりを目の当たりにする事になった。



 新の馬鹿顔を見るのにも飽きてきた頃、新が突然声を上げた。

「栞、来たのか。」

 ……はっ?

 俺は新の発した言葉に、しばらく瞬きを繰り返していた。

 言葉に驚いたんじゃない、言葉を発した声に驚いたからだ。

 新の口からはこれでもかってほどの、甘ったるい優しすぎる声色が飛び出している。