また誰かに見られたら怒られるどころじゃ済まないと、慌ててフェンリルに首輪を着けた。



「それで……どうかしたの?自檻の外に出てきて、その上私に話しかけくるなんて」


『あんたのそのやり方に少しイライラしていただけ』


「やり方?」


『突然始めた訓練だよ。それぞれ得意不得意ってものががあるだろ。オレ達と心を通わせて、各々がやりやすいようにやらなければ、訓練の意味を成さない。それに言っておくが、ケルベロスは頭が三つあるから匂いを覚えるのに個体差が生じて、正確な判断が出来ないんだぞ』


「そ、そうなの?」


『あんたにはそんな訓練はできない。出来るのは騎士達だけだ』



 知らなかった事実と自分の無力さにバッチを握りしめると、フェンリルはため息を着くかのように鼻を鳴らす。



『まったく……見てられないから、オレからここにいる奴らに、騎士達との訓練を開始するように伝える。あんたも、あのクソ獣人に伝えておけ』


「えっ?え?」


『あーもー!協力するって言ってんだよ!明日、騎士達との合同訓練を行う。いいか!』


「はっはい!」



 声を荒らげたフェンリルに、びくりと反応する。ミアが返事するのと同じように、獣舎の中の魔獣達もフェンリルの指示に反応するように鳴いた。

 突然出来たもう一人の上司のような存在に、立場が良く分からなくなったミアは、表情を固くするケルベロスの三つの顔と目配せすることしかできなかったのだった。