獣舎に辿り着き、自分の檻の中へと戻っていくフェンリルの後ろ姿を見つめつつ、ミアの帰りを心待ちにしていた他の魔獣達を撫でる。

 モフモフに癒されながらも、ちゃんと檻の鍵が閉まっているか確認する。フェンリルの檻の鍵は掛かっておらず、やはり自分の鍵の閉め忘れかと肩を落とした。



「今度からちゃんと気をつけなきゃ……また脱走なんかしちゃったら、団長に怒られちゃう」


『あいつに怒られて、癒しをくれとオレにせがまれても困るしな。しっかり管理しとけよ、召喚士』


「……!やっぱりあなた喋って!!」


『いいか。オレのことを他言するというのなら――命はないと思え』


「ひっ……!」



 背を向けたまま、器用に尻尾で檻の扉を閉めたフェンリルは、そのまま奥の寝床へと着いた。

 後を追いかけようとしたが、その前に獣舎に背筋が凍るような冷たい空気が流れ込む。それを感じ取ったのはミアだけでなく、獣舎にいる魔獣達も身の危険を感知したのか、震えるように踞る。

 嫌な予感がしながらも、そっとフェンリルの檻の鍵を閉め、恐る恐る振り返る。

 獣舎の扉に寄りかかって眉間にしわを寄せて立つのは、いつの間にか帰ってきていたリヒトだった。あれだけ、無事に帰ってきてほしいと願っていたというのに、早すぎるお帰りに素直に喜べない。



「ミア・スカーレット。俺たちが留守にしていた間の、詳しい話を聞かせてもらおうか?」



 まだ頭の整理が追いついていない中、追い討ちを掛けてくるリヒトに涙目になりながらも頷くしかなかった。


 あっ、悪魔が二人もいるッ!!!!


 誰にも言えないフェンリルの秘密を抱えたまま、リヒトにどう説明すれば穏便にいくのか、今の余裕のないミアには何一つとして思い浮かばなかったのだった。