ミアの存在に気づいたのか、綺麗な顔から威圧的な表情を生み出すと、ユネスはおじゃま虫は退散するね〜とよく分からない言葉だけを残して行ってしまった。
「おい」
二人残された獣舎前で、低い声がミアの背筋を伝っていく。それだと言うのに、彼の熱を甘い声を思い出して、むず痒くなるのをどうにか誤魔化した。
「何をそんな怯えている」
「えっと……」
見つめられる瞳に全てを見抜かれそうで、目を逸らそうとするものの、そうはさせまいとリヒトの目力が増す。諦めてじっとペリドットの瞳で、その目を見つめた。
逃がさない、そう言っているようで心の中で波打つ感情を吐き出した。
「どうか……無事に帰ってきてください」
「はっ。何かと思えばそんなことか。俺達をなんだと思っている」
彼の呆れた声に何か変な事を言ってしまったのだと、唇を噛み締めると、そっとリヒトが近づいてきた。
「お前一人を残していくなんてことはしない。安心しろ」
「え……」
ミアの短い髪に手を伸ばし、微かに触れたリヒトの手の温もりはすぐに消えて、彼は踵を返して歩き出していた。
「後は頼んだ」
背中で語るように振り返らずに吐き捨てたリヒトは、部下が用意して待つ馬に跨るとそのまま騎士達をまとめながら門へと馬を走らせていった。
遠くへと消えていく彼らの姿を見送るように見つめていたミアは、頭に酸素を送るように大きく深呼吸をした。



