まだ覚醒しきってない頭で、俺はあいつに何をした?



 彼女の温もりを確かめるだけでなく、あの髪を撫で柔らかい頬を堪能し、そのまま――。

 曖昧な記憶だが、確かに言えることは一つだけある。



「あんな面白い反応を見せるあいつは、悪くない……な」



 ポツリと呟いた言葉は誰の耳にも届くことはなかったが、リヒト自身に言葉が根付くように深く絡まっていく。

 寧ろもっと色んな表情を見てみたいとまで思ってしまう。そう思ってしまうのは、素直な気持ちが全て表情に出て、無理やり押し付けた仕事だというのに、懸命にこなす彼女の頑張る姿を見ていて楽しいからだろうか。

 あの手で魔獣達を撫で、あのペリドットの瞳で見つめられ、あの柔らかい頬を擦られると思うと、魔獣達が少しだけ羨ましくなる気持ちに蓋をしながら、ゆっくりと立ち上がった。

 不思議と普段よりも仕事の疲労が消えていることに驚きつつ、しんと静まり返った部屋を後にしようと扉へと向かう。


「さて、もう一寝入りしてから仕事に取り掛かるか。一区切りついたらあいつの様子でも――って何考えてるんだ俺は……」


 全ては月の魔力のせいだと自分に言い聞かせながら、また彼女のペリドットの瞳が見たいと、声が聞きたいと思うのを誤魔化して部屋を出たのだった。