ふとフェンリルの顔を見上げるが、涼やかな顔で前を見つめ、ミアのことなど興味は一切示していない。



「……ありがとう」



 鬼の上司から助けて貰ったのは紛れもない事実だった為、フェンリルがどう思っていようがミアは感謝の気持ちを口にする。

 ――そんなミアの気づかない所で、フェンリルは尻尾を左右に振った。

 獣舎に戻り残った仕事を進めていけば、今日という日がまた終わりに近づくように、空が夜へと身を染めていく。

 何時にも増して疲労感がどっと押し寄せて来たミアは、仕事を終えてフラフラした足取りで寮へと戻る。ベッドに倒れるとすぐ、眠気がミアを襲う。



「今日も団長怖かったなあ。怒られないように、フェンリルのこと世話しなきゃ……」



 あの圧力には未だ慣れないミアは、あの綺麗な顔が怒りに染まるのを想像して唇を噛み締めた。

 今日みたいに何か言われないように、とことん世話係を務めていかなければという気持ちに燃える一方、身体は休息を求めてやまない。

 いつの間にかやって来た睡魔に、ミアはそのまま身体を預ける。

 ……ギィと一つ扉が開く音が部屋に響き、夢の世界に入る直前、優しい温もりに触れたような気がしたが、温もりの正体を確かめることなくミアは深い眠りに落ちていった。