「今日も奮闘してるねえ……」
「あのフェンリルは怯えてるというよりか、俺達に興味ないって感じだもんなあ」
「あいつ派手に転んだミアちゃん見て、ちょっと楽しそうにしてるよな?」
「ある意味懐いてるんじゃね?」
「お前ら、口を動かしてないで仕事したらどうだ?」
「うわっ!団長!?」
久々に聞いた恐ろしい声に、言われた側の人間ではないのに、ミアの背筋も伸びた。
休憩中の騎士達の元に相変わらず真っ黒な格好で、姿を表したリヒトの姿に本能的に危険を察知してしまう。
何か言われる前にここから退散しようとフェンリルの散歩を続行しようとしたが、リヒトを睨みつけて離さない。
「ちょっと……!面倒になる前に獣舎に戻ろうよ!」
「ガルル」
「いーいーかーらー!」
力強く手綱を引っ張るが、ミアの体の二倍の大きさのフェンリルをミアの力だけで動かすことは到底出来なかった。
何か呟いたリヒトと目が合って、咄嗟にフェンリルに隠れるようにしながら、必死に檻に帰そうと試みる。
ブラッシングしていない毛並みだというのに、撫でる毛はどこもかしこも柔らかく滑らかで、帰ることそっちのけでもふもふに目移りしてしまった。
あまり撫でさせてくれないフェンリルにこの機会を逃すものかと、優しく撫でていると影が落ちた。



