それを目の当たりにした騎士達は、新たな威嚇行動と勘違いしてそそくさと獣舎を去っていく。

 唯一シュエルだけが状況を飲み込んで、おかしな子がやって来た事に心を踊らせ、自然と笑みを零した。



「すごい子も居たもんだ……」



 彼が口に出した言葉はミアの耳には届くことなく、魔獣達の鳴き声に揉み消されて消える。

 檻の中を順番に周り終わったミアに、スノウベアが我慢し切れなくなったのか彼女の足に突進して来ては、撫でられるのを求めた。

 スノウベアを抱き上げて撫でれば、大人しくミアの腕の中で気持ちよさそうな表情を浮かべる。



「そう言えば、このスノウベアだけ檻の中に入ってないけど、何かあったの?」


「団長を前に怯えた結果、朝から巨大化して大暴れしててさ。騎士舎に来る途中、抉れてた所あっただろ?そいつがやったんだ」


「えっ?!あれ、この子がやったの?」


「スノウベアは体内に魔力を溜め込む能力があるから、その魔力で子供だろうが大きくなるんだ。檻に入れようにも、中々落ち着かなくて魔力抑制の首輪を付けようと思ったんだけど、やっぱり逃げ出して……」



 ミアとすれ違うように騎士舎から逃げていったのは、獣人である騎士達に怯えていたせいだったらしい。ミアにも十分その気持ちが理解できて、同情してしまう。

 リヒトを前に逆らったら命が助かる未来が見えないあの感覚は、魔獣の本能にもそう訴えかけるらしい。