「おい、お前。先程の選択肢にもう一つ選択肢を与えてやる。魔獣の餌になるか、これまで生きてきた記憶全て抹消されるか――それとも魔獣達の世話係になるか……さあ選べ」


「えっと、え?」


「俺の監視下で働いてもらわないと、何を仕出かすか分かったもんじゃないからな。ああ、安心しろ。三食寝床に魔獣付きだ。悪くない条件だろ?」



 有無を言わせない圧力に逃げ出したくなるが、長椅子に座ってる以上逃げ場はもうない。


 これは……死ぬか、働くかを選べと……。


 ごくりと唾を飲み込み、この場で拒否したらすぐにでも命がなくなる未来が簡単に想像できた。



「俺らの秘密を知ったんだ。簡単に逃げれると思うなよ?」



 勝ち誇った笑みを浮かべながら耳元でそう囁かれると、その言葉を反射的に吐き出していた。



「こっここで、働かせていただきます!」


「よし、成立だな。これからよろしく頼むぞ、俺の“主様”。くれぐれも俺とお前が主従関係があることは他言無用だ……いいな?」



 圧力を掛けてくるリヒトに、黙って縦に首を何度も何度も振る。

 長い睫毛の奥に揺れる綺麗な瞳を輝かせ、不敵な笑み作り上げた上司となるリヒトを、眉目秀麗な人の皮を被った獣だと今更ながら悟ったのだった。