水の妖精《フェアリー》を喚ぶ者は、水車で人々の生活を潤す領主となったり、またある者は地下資源を求めドワーフ達を召喚し、彼らと共に洞窟を掘り進める者もいる。
召喚士には召喚した対象と共に生涯を歩むのが絶対条件になるため、良き相棒を見定める目も持っていなければならない。
その言葉をミアはしつこく授業中に言い聞かされていたのを、つい昨日の事のように思い出せる。
ただ魔獣と心を通わせることは騎士達しか出来ないため、余程な腕を持つ召喚士か、相当な覚悟を決め召喚した者しか喚び起こす事はしない。
一つの意志を貫き通した召喚士が、ここの門を潜り抜けて召喚したであろうはずの魔獣が、この場に残っているのはおかしな話だった。
「あー……あの子達は」
表情を曇らせるユネスに、まさかとミアはバッチを強く握りしめた。思い浮かんだ一つの考えを口にしようとしたその時、部屋の外から何やら騒がしい音が聞こえてきた。
足音が大きく響き渡って聞こえてきたかと思えば、扉が叩かれる。
「団長〜?さっき逃げ出したスノウベア、ようやく捕まえましたって……あれ?」
燃えるような真っ赤な夕日のような、深みのあるレディッシュブラウンの短い髪を小さく揺らす青年が扉を開けて入ってきた。バチリと目が合ったミアは、彼がごく自然に動かすリヒトと同じような獣耳に視線を注ぐ。
その視線から逃れるように背を曲げて、動揺のあまり口をパクパク動かしている。



