怒りをぶつけられるかもしれない、ただそれだけではないのだ。

 扉を前に一呼吸置いてからと思っていたが、その獣の耳は誤魔化せない。



「わっ!」



 扉を叩く前に自動的に扉が開き、不機嫌そうなリヒトがミアを迎え入れるように強引に引っ張った。

 そのままの勢いに身を預けると、すっぽりとリヒトの腕の中に捕われてしまう。



「団長……お仕事中では?」


「暫しの休息も、俺には必要だ」



 人目がないことをいい事に、ミアに甘える姿は獣そのもの。

獣の聴覚を利用し、彼女の足音すらも聞き分けて、こうして待ち構えていることも増えてきた。

 獣耳にふさふさの尻尾を顕にして、重たい溜め息を零しながら、彼女を抱き締める腕に力を込める。

 懐古の月の力の影響がまだ出てしまう事もあり、感情のままに動いてしまうのだ。

 これまで理性で保っていた、ミアに甘えるという行動を我慢出来なくなったリヒトは、こうして二人きりになると獣になる。

 困ったことに、彼の仕事はこうして中断されて益々増えてしまう。