「当たり前だろ。俺は魔獣達のことを任せてきたというのに任務を放棄して、何故こんな場所にいるんだ?」



 ミアを見ることなく、剣を抜いたリヒトは明らかにお怒りだ。

 言葉を濁す彼女に、わざとらしい溜め息を零す。



「俺達が先に倒すのが先か、ミアが神獣を召喚するのが先か……。後者の場合、始末書はなしにしてやってもいい」


「……はいっ!」


「くれぐれも怪我をするような事があれば、クビだからな」



 剣を構えたリヒトはミアに振り返ることなく、凄まじい速さでバハムートの距離を詰めていく。

 援護するフェンリルも、バハムートに隙を与えるものかと、挟み撃ちを仕掛け始める。

 普段から訓練を繰り返してこなかった二人だというのに、何も言わずともピッタリと呼吸を揃えていた。


「はあぁっ!!」


 二人の動きに見惚れてしまいそうになるのをぐっと堪えて、ミアも動き出した。

 魔物とは違って邪神と呼ばれる強さを持つバハムート相手に、確実に倒せる確証はない。

 それにこれまでの戦いで、疲労が蓄積されているのは確かだ。重たい一撃を繰り出すリヒトも、僅かに息が上がってきている。

 彼の強さは十分に知ってはいるが、ミアも召喚士の誇りを捨てたわけではない。



 団長の背中を追いかけるだけはもう嫌だ。私だって、支えて見せるんだから……!!



 取り戻した感覚を握りしめながら、二人の戦いの邪魔にならないようにしながら、神獣が宿る岩へと急ぐ。



 ――この戦いに勝利をもたらす光を掴み取る為に。