フェンリルが踏みしめる大地は既に死んでいるというのに、彼の力によって周囲に草花が芽吹く。

 彼の額から現れた光の礫に息を吹き込むと、意志を持つように光の礫はミアの額の中へと入っていく。

 光が溶け込むようにミアの中に広がっていくと、知らない過去の記憶がどこからか流れ込んでくる。

 一人の青年と共に荒れた大地を浄化し、再び安寧の地を取り戻した誇りと喜び。



 そして――大切にしていたこの世界が再び脅かされる怒り。



 その記憶の糸を手繰り寄せて見えた、一筋の光と僅かに共鳴する。はっきりと声が聞こえるわけではないが、その声は確かにミアの中で脈を打つ。




「呼んでる……」




 流れてきた記憶と、その声を頼りに周囲を見渡す。