熱は胸から徐々に上へと上がってきて、遂に喉まで到達する。身体がそうしろと命令するように、ミアは這い上がってきたその言葉を口にする。



「まっ、待て!!」



 力強く吐き出した言葉は、執務室に大きく響き渡る。自分の声がようやく耳に届いた時に、反射的にミアは手で口元を押さえた。


 今、私なんて……?


 自分で発した言葉だというのに、どうしてその言葉を発したのか分からなかった。

 自分の言動にまたしても取り返しのつかない事をやってしまったのではないかと、冷や汗を滲ませているとこめかみに感じていた痛みが消えた。



「……?」



 目線を上げれば、悔しそうに口を曲げるリヒトが見えない何かに縛られたかのように動きを止めていた。



「こ、これは……?」


「またしても余計な事をッ……!」


「はいはい。もういい加減状況を受け入れて。”主”を前にして勝てるわけないんだから」



 ユネスがリヒトの首根っこを掴むようにして、執務室の長椅子に座らせると、急に大人しくなったリヒトは前髪をくしゃりと掻き上げた。



「ミアちゃんもどうぞ座って。色々と説明しなきゃ状況に着いていけないでしょ?」


「えっ、あ、はい!」



 言われるがまま座るように促された長椅子に腰掛けると、ここからの話の主導権は自分にあるとユネスが一つ咳払いをした。