普段は灯すことの無い松明に火を着け、寝息が聞こえるはずの時間は緊急事態に焦るミア達の足音によって静寂をかき消されていた。

 檻の中で力なく横たわる魔獣達は、まだ気を失ったまま。苦しみと戦うように、時折ピクリと体を痙攣させる。

 自分の相棒の変わり果てた姿に、動揺を隠しきれない騎士は、獣舎のあれこれを知るミアの邪魔にならないよう、獣舎の外で様子を見守っていた。

 騎士達と協力して、何とか最後の魔獣を獣舎に戻し終わった頃に、ズレ落ちそうな眼鏡を掛け直しながら白衣と皮の鞄を片手にやって来たのは、物腰が柔らかそうな一人の男性だった。

 騎士とは全く違う格好の見知らぬ人物に、ミア首を傾げた。



「失礼致します……!」



 歳は三十代半ばと言った所だろうか。年下であるリヒトを前にしても腰の低い挨拶を交わして、真剣な面立ちで魔獣達を見つめる。

 その視線が一般人が魔獣を見つめる目とは違い、専門的な目で視診していると分かったミアは、男性の元へと駆け寄った。



「すみません!魔獣のお医者様でいらっしゃいますか?」


「はい。王国軍で魔獣医として働かせていただいております、ハイロン・サリステルと申します」


「あのっ、何かお手伝いすることはありませんか?!」


「え、ええっと……?!」



 突然のミアの申し出にやや困惑しているハイロンだったが、落ち着けと言わんばかりにリヒトが声を掛けた。