「――我が主の元に」 


「ん?!」



 正座するミアの手を取り、軽く甲に唇を押し付けるリヒトはまるで別人だ。

 余計に頭が混乱するミアに対して、ユネスは顎に手を添えて納得したかのように頷いた。



「ふーん。召喚と共に契約まで交わしてある状態ってわけか……」


「ユネスさんっ!これって一体どういう事ですか?!」


「簡単だよ。リヒトはミアちゃんの召喚獣になったってわけ」


「しょ、召喚獣……?」



 確かに獣耳に尻尾は人ならざるものだとは言えるが、彼は獣の姿をしてはいない。

 第一、ミアは学生時代にまともな召喚獣を召喚できた試しがなく、ましてや人を召喚するなど見たことも聞いた事もないミアには出来るわけがない。

 精々野鳥や野うさぎ程度でしか召喚出来ない彼女には、到底不可能だ。

 ユネスの言っていることに首を傾げて、掴まれていた手をそっと剥がそうと試みたが、力強く腕を持っていかれる。



「お前なあ……!」


「ひゃうっ!」



 先程までの大人しくなったリヒトは何処かに消え、再び今まで通りに戻ったかと思えば、容赦なくミアのこめかみを押さえつけてきた。



「召喚では飽き足らず、契約までだと?俺に喧嘩売ってるのかお前は!!」


「えっ、ちょ!痛いです!!」


「魔獣の餌になりたいか?それとも、これまで生きてきた記憶全て抹消されたいか?……さあ選べ」



 逆鱗に触れてしまったと後悔していると、全身が急に熱くなったかと思えば、内側から何かが這い上がってくる感覚に陥る。