凛としたエルザの裏顔は、あまりにも想像とかけ離れていて、忠告してきたあの威厳は今の彼女には持ち合わせていない。



「昔からエルザはフェンリルの虜なんだ。縁談の話もいくつか上がっているというのに、フェンリルの事で頭がいっぱいだからと、全て断っているらしい」


「縁談?!」


「一応公爵令嬢だからな。家の仕来りで苦労するはずなのに、自分の感情に一切嘘は付かずに突き進んでるすごい女だ、あいつは」



 エルザを見つめるリヒトの瞳は、頼れる仲間を見つめる時と同じものだった。

 ハッキリと分かった答えに、自分一人が誤解して落ち込んだり、勝手に這い上がったり……思えば思う程恥ずかしい。



「俺とエルザの関係がどうとか言ってたが、何のことだ?」



 痛い所を突かれ、顔は瞬く間に赤く染まる。隠しきれない反応に、リヒトはどこか挑発的に笑う。



「何か誤解してたのか?」


「べっ別に……」


「ふーん、そうか」



 今すぐこの場から逃げ出して、獣舎で恥ずかしい感情を叫びたい。そう思って唇を噛み締めたまま、リヒトを無視して訓練場から出ようと歩き出した。





 ほんの僅かに地面が揺れた、そう感じた次の瞬間――。