「はあ……」



 苛立ちを含めた溜息を聞くのは、果たしてこれで何度目か。

 椅子の背もたれに身体を預け、長い足を組むリヒトは、床で正座をしながら震えるミアを逃がすものかと鋭く睨みつけていた。

 今にも喰われそうなその迫力に、ミアの目線はずっと床の木目に注がれ、そこから動かせない。



「……よりにもよって、こんなマヌケな奴に正体がバレるとはな」


「起こってしまった事は仕方ないよ」


「クソ……」



 二人のやり取りを聞きながら、自分が何を仕出かしたのか、何がどうなっているのかを頭の中で整理しようにもミアの頭は考えることを止めていた。


 何も無かったことにして、家に帰りたい……。


 ヘマをしてはいけないと肝に銘じていたというのに、結果はこれだ。
  
 失敗したことに対する落ち込んだ気持ちに、目の前で苛立ちを抑えきれないリヒトの態度に涙が滲む。



「本当に……すみませんでした」


「謝って事が丸く収まるなら、その空っぽの頭が無くなるまで、地面に額を擦り付けて謝れと言いたいくらいだ」


「うぅ……」


 容赦ない言葉に身を小さくして再び頭を下げると、肩を叩かれるや否やユネスが耳元で囁いてきた。



「忠誠を示せって言ってみてくれる?」


「え……?」


「せーの」


「ちゅ、忠誠を示せ?」



 訳が分からないまま指示された通りにそう呟くと、突然椅子に座っていたリヒトがミアの元へとやってくると、そのまま片膝をついて頭を垂れた。