狼狽えるミアを支えるようにフェンリルがそっと傍に来てくれた事により、ミアは何とか平常心を保つことが出来た。
「ああ。この春に第四部隊に入団してきた召喚士、ミア・スカーレットだ。そう言えば初対面だったな」
「はっ、初めまして。召喚士のミア・スカーレットです」
「初めまして、ミアさん。私は王国軍魔獣騎士団の副団長を勤めている、エルザ・イースヴェンよ。どうぞ宜しく」
エルザは短く目を伏せて軽く挨拶を済ませると、リヒトに視線を移す。
「ここの魔獣を懐かせたっていう噂は本当のようね。あれだけの信頼関係が、短期間で構築されているのには驚いたわ」
「お陰でこっちの戦闘も楽になっている。あのフェンリルでさえ、ミアに懐いているからな。見込みのある自慢の新人だ」
「団長が人を褒めるなんて珍しい。余っ程出来る子……なのね?」
先程の一連の流れを知っているエルザは、リヒトの言葉に呆れた表情を僅かに浮かべたのを見逃さなかった。
挨拶と偽って、ミアの情報を引き出そうとしていたのだ。
リヒトに褒められたというのに、その言葉は何もミアの耳には入ってこない。寧ろ聞きたくなかった。
「挨拶はこれくらいにしておいて……エルザ、弓部隊の方の訓練に付き合ってほしい」
「いいわ。団長は持ってきた書類にも目を通しておいてくれる?」
「無論。では、後程合流しよう。ミア、お前も頑張れよ」
そう言って去っていく背中を見ているのが辛くて俯いていると、自分の前に影が落ちた。
その気配に支配されるまま顔を上げると、エルザの冷たい目がミアを捕らえる。



