ぐっと唇を噛み締めて乱れた心を押さえつけていると、話はいつの間にか別の話に変わっていた。

 ただそこに、ミアを取り残して。



 団長の……恋人?



 頭が追いつかない事実に、胸がどんどんと苦しくなるが、訓練場を前にその気持ちを無理やり拭い去った。

 入る前に深呼吸していると、隣にやって来たフェンリルが尻尾で背中を叩いてくる。



『いいか。くれぐれも調子には乗るなよ。まだ一度の召喚しか成功してないってことを肝に銘じておけ』


「……」


『ミア』


「っえ!あ、うん!」


『何をぼけーっとしている。今日ここに来た目的は、魔獣本来の力を感じ取ることだ。召喚術を成功させる為にも、魔獣達の動きをよく観察して、魔獣の力の流れを読め。掴んだら術を発動させてみろ』


「分かったわ」



 気持ちを切り替えながら大きく頷くと、騎士達に続くように訓練場の中へと入る。

 拭い去ったと思っていた感情だったが、リヒトともう一人のその姿を見つけた途端に痛い気持ちが滲み出てくる。

 長いストロベリーブロンドの髪を高い所で一つに結い上げ、つり目がちの凛々しさを感じさせる女性が親密そうに何かを語らっている。

 身に纏う騎士団の制服は彼女の身の丈に合っていて、制服に着せられているミアとは大違いだった。