暖炉の揺れる灯りを浴びながら、台詞も物語も全て覚えきった古い一冊の本に今夜も幼き少女は瞳を輝かせながら、心踊る一時を過ごしていた。

 母親の心地よい声に時折眠気を誘われそうにもなるが、大好きな頁が来るまで少女の瞳には決して寝るものかという強い想いが宿っている。

 ようやくやって来た頁に描かれた絵がいよいよだと少女に告げ、彼女は文字を読む母親の口元の動きを見つめた。



「――こうしてドラゴンは深き精霊の地に眠り、全ての闇を封印したロベルツはこう言いました」


「いつか魔獣と共に平和を築いていく。それが僕の……召喚士の仕事だ!」




 待ってましたと言わんばかりにその台詞を言って、母親が持っていた本をそっと抱きしめた。




「本当にこのお話が好きね」


「うんっ!私ね、いつかにこの物語のロベルツみたいに、立派な召喚士になりたいの!たくさんの魔獣さん達と仲良くなって、それでいっぱい遊んでね!それから、それからっ」


「ふふ、はいはい。私の可愛い猛獣さん?もう寝る時間よ」



 瞼の上にやって来た優しい温もりの母親の手のひらに包まれて、少女は夢の中へと手を引かれていく。

 夢へと続く扉はいとも簡単に開いて、少女を招き入れる。

 扉の向こうは無限大の可能性が広がる世界。

 少女は一つの光に向かって手を伸ばすと、そこに待っていたのは憧れの世界だった。

 白い大きな獣に跨ぎ、広大な草原を走り抜け仲間と共に数々の任務をこなす……そんな夢の世界を駆け抜けていた――。