- ̗̀ 𖤐
꙳☄︎
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─────からから、ぴしゃん。
後ろ手に閉めたベランダの窓。
そのまま自室へと戻る気にはなれず、ずるずるとその場にへたり込む。さいわい、兄である氷昏はいつもの習慣で不在だった。
「………っああ、くそが、」
ぐしゃり、髪の毛を雑に掴んで、ぐちゃぐちゃになった頭の中を空っぽにする。
予想外だった。想定外だった。
乃坂澄良が、あそこで、あんなところで、口を挟んでくるなんて。
『─────それ、は、ちがうと、おもう』
夜に魅せられた眼下に広がる明かりのように。
夜風になびいて踊るすこし白みがかったグレーの髪と、頭上に輝く星と月を一緒に煮詰めたような、淡い光に色づいた瞳に、魅せられるかと思った。
……もうすでに、その瞳には別のものが魅せられているというのに。
……ああ、どうか、頼むから。
「─────好きになんて、なってくれるなよ」
ここからが、本当のはじまりなのだから。



