愛たい夜に抱きしめて





「わたしは、3人の中に、絶対的悪は存在しないと思うよ。だって、本当に容赦のない暴力をふるうだけの人だったのなら、お父さんは離婚届を提出なんてしなかっただろうし、お母さんは自分を助けてくれなかった紫昏くんと一緒に逃げ出したりしなかったと思うから」




こんな結論、とうの昔に紫昏くん自身も出していただろう。

わたしだって考えつくんだから、聡い紫昏くんが気づかないわけがない。


なにせ、彼は我が校きっての首席くんだから。


けれど、それでもと、人は思う。

それでも、誰が悪かったのか、知りたくなる。決めつけたくなる。

次、そんなことが起こらないように。




「……それでも。それでも、紫昏くんの身に起こったことで、もし、誰かが、何かが絶対的に悪いのだとすれば、」




次の言葉を、静かに紫昏くんが待っている。


瞳を揺らして。髪を風になびかせて。

その姿は、まるで夜の街に惑う迷子の子供みたいで。



だから、その目にはどうしても。




「─────女性を軽んじてもいいなんて言い始めた昔の誰かと、それを肯定した世論だって、わたしは思うから。……だから、紫昏くん〝だけ〟が、特別悪いってことは、ないと思う」




ありきたりな言葉じゃなくて、檪紫昏のために設計された言葉が、届いてほしかった。