「敬語を取ろうにも、躾けられた時のことが頭によぎってしまって。母に暴力はふるわれませんでしたが、かなりその、こっぴどく言われたので」
いまの現状に甘んじて。
これがいいと。これが正解だと。これでいいんだと。
そう、やって。
「だから、避けられて。……嫌われて当然なんですよ。母が助けを求めていた時に、父が怖くて止められなかった、……僕の責任ですから。……だからすみません。乃坂さんには、僕がいる限り、母を紹介できないと思います」
─────諦める落とし所を見つけては、きっとダメ。
「……ち、が、」
口を閉じてしまえばよかった。
かすれた声など、きらめく光をさびしそうに見つめる瞳に、届かなければよかった。
またいつものように、開いて、また閉じるものだと、自分でも、そう思っていたのに。
「……それ、は、ちがうと、おもう」
……合わさることが、呑み込むことが、なぜかできなかった。



