愛たい夜に抱きしめて





「いつからとか、あんまりよく覚えてないんですけど、どうやら父に、女性蔑視の気があったみたいで。……いつのまにか、母に対して、暴力をふるっているのが日常になっていて」




淡々と紡がれる言葉。

それは、単なる過去という事実の羅列。


……けれど、その言葉の節々から漏れるものは。




「父は、僕に対しては暴力は、ふるわなくて。逆に、何度も何度も、泣いていて。母にしてきた数々を、懺悔するみたいに、まだ小学生だった僕に独りごちていて」




言葉から滲み出ている、なにかは。

空気に溶ける前に、触れられたら。




「……けど、僕は、母にむけていた父の目を知ってしまった時から、なにも言えなくなったんです。だから、……だから、」




─────冷たくなったそれを、温めなおすことは、できるのだろうか。




「母の、〝助けて〟という言葉に、何もできなかった」