愛たい夜に抱きしめて






表情もきちんと見ることはできないし、そもそも紫昏くんはポーカーフェイスなどお手のものだから、見たところで意味などない。


だから、声から。言葉から。

何もかも、推測することしかできなかった。




「敬語癖と母のことについては、僕が檪家に来る前のことをお話ししなければならなくて、おそらく長くなってしまうと思うのですが、大丈夫ですか?」

「……うん。長くなると思って、羽織るもの持ってきたから」

「乃坂さんは察しがいいようで何よりです」




またわたしから目を逸らして、きらきらチカチカ瞬く世界を目に映す。

昼間では決して見られない、夜に魅せられた明かりを。




「ええっと、まず、僕の名前、もともと紫昏じゃなかったんですよね。檪っていう名字になると同時に改名しまして」

「……これもまた、込み入った事情が?」

「はい。この家族に仲間入りする前の僕の家ではDVがあったので、それを理由に母に変えられました。もしかしたら、それ以外の理由もあるかもしれないですけどね」



紫昏くんにとって、その過去がどんなものか。

抑揚のなさすぎる声と、夜のベールに隠された表情では、全くもってわからない。