わたしに対しても、出会った当日に敬語を抜くことを勧めてきた。
というか、本人がすごく嫌そうだったのに、紫昏くんがそれを知らないっていうことはないに等しい。
それなのに、敬語を頑なに続けてきたのには、それなりの理由があるんだろうなあ、とはなんとなく察していた、けど。
「……やっぱり、そこが引っかかりますよね」
肩をすくめて見せた紫昏くんは、短く息をついて。
「─────父がなぜ氷昏兄さんを避けているのかは知りませんが、母が僕を避けている理由は、この顔、というか、僕の存在が原因です」
「……それは、紫昏くんの敬語癖も関係してる?」
「はい。そうですね」
淡白な声が、磨りガラスのように紫昏くんの心をうまく隠して、敬語はきっと、その防壁。
心を守って透けない壁が、そこにあるような気がした。



