愛たい夜に抱きしめて





声が聞こえた瞬間、ぴゃっとすごい速さで壁から遠ざかった。




「……あ、紫昏、くん」




隣にわたわたと目を向ければ、リビングから溢れ出る光が目を丸くした紫昏くんの横顔を照らしていた。




「あ、ち、ちが、えっと、洗濯物を干そうとしたわけではなくて、」



ベランダで洗濯物を干すことは禁止されていることを思い出して、慌てて口を回したら、紫昏くんに笑われてしまった。なぜ。



「っふ、そんなに慌てなくても大丈夫です。乃坂さんはきちんと約束事を守る人だっていうのは、わかっているつもりなので」



どうやら、弁解するわたしの姿がひどく面白かったらしい。解せぬ。



「せっかくベランダがあるなら、外に出たくなる気持ちもわかるので」




……ただ、と含みを持たせた紫昏くんは、スッと真顔へと戻って。




「─────すこし、心配で」