「……あれ」
ひとりっきりになった部屋で、ぽつり、と声を溶かした。
そろりそろりとほんの好奇心で窓を開けてみれば、ここ最近ずっと強かった風が、今日は全然強くない。ほんの微風。
だから思わず、あの警告も忘れて。
─────夜に誘われるように、ベランダに踏み出した。
「……さむ、」
全身を闇の中へと放り出した瞬間、冷たい空気が体中にまとわりつく。
ブランケットを羽織ってくるんだったと後悔しながら、それでも出たことは後悔しない。
ガラス張りの、わたしの胸まである壁の向こうを、無理やり覗き込む。
眼前には、さすが中心都市と呼ぶべきか、きらきらチカチカたくさんの明かりがホタルみたいに瞬いている。
────それでも、真下に見える景色は、
輝いていなくて。
ぐっと、もう一息、壁の向こうに身を乗り出した、刹那。
「……乃坂さん?」



