愛たい夜に抱きしめて





そう言うと、紫昏くんはホッと安堵したように息をつく。




「そうでしたか。乃坂さんはこちらに来られたばかりなので、迷子にでもなっていたらどうしようかと少し心配していましたので」




……なんだろう。

心配されていた、ということは伝わってくるんだけど、若干バカにされている感も否めないというか。


被害妄想というか、たぶん杞憂だとは思うんだけど。




「……あの、でも引っ越しの手伝いをしてもらったのに、夕食のご相伴にまであずかるわけには……」

「もとはと言えばこちらの不手際ですし。コンビニ食じゃ偏ってしまいますから、どうかと思ってもう食事も作ってあるのですが……」




眉を下げた紫昏くんの表情に、ゔっ、と喉が潰れたような声を出す。


しょ、食事がもう用意されてあるとは。

なんという用意周到さ。


これでは断ろうにも断れない。




「……あの、では、今回だけ、同席させてもらうね」