無音で上昇していくエレベーター。
その中で、もちろん会話などない。
一歩引いて紫昏くんを見ていれば、段ボールを抱えている手の爪先をついつい見てしまう。
嫌でも目につく、漆黒の爪。
「……乃坂さん?」
「……あ、はい、な、に?」
「いえ、ぼうっとしていましたので、具合でも悪いのかと思いまして」
「……や、大丈夫」
爪をまた見ていただけ、なんだけど、この前のこともあるから突っ込んでいいのかもわからない。
「具合が悪くなればいつでも言ってくださいね。────お隣さんですし」
付け足された最後の言葉に、へ?と返事する暇もなく。
チン、と軽い音が鳴ってドアが開いて。
「……あれ。お話してませんでしたか?」
わざとらしく小首を傾げて、エレベーターの外から出た紫昏くんは、ちら、と斜め後方に目を向けると。
「僕たちが住む部屋も、乃坂さんと同じ階にあるんです」
なんて爆弾を投下された。



